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2007-03-23

直前の生

 5月号も無事校了を迎えました。発売日に店頭に並ぶので、手にとっていただけると嬉しいです。
 で、連夜の作業の疲れを取るべく見に行った映画が、物凄く重い内容で、さらに疲れがたまってしまいました。
 その映画は 『パラダイス・ナウ』です。
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 イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区ナブルス。自動車修理工として働く幼馴染のサイードとハーレドは、自動車修理工として働いているものの、占領という事実の中で未来も希望もない毎日を過ごしていた。そんなある日、自爆志願者をつのるパレスチナ人組織の交渉代表者ジャマルにテルアビブでの「自爆攻撃」を任ぜられる。ところが目的地に向かう途中でアクシデントが起こり、自分では外せない爆弾を身につけたまま二人は離れ離れになってしまう。

 この映画は、『WiLL』07年4月号で吉田真由美さんが取り上げておられます。その月のイチオシは『ラスト・キング・オブ・スコットランド』だったのですが、実は『パラダイス・ナウ』にしようかと迷ったそうです。結局『ラスト~』にしたのは、『パラダイス・ナウ』の内容があまりにも重く深いので、決して明るく「イチオシ!」とは言えないから、だそうです。実際に見て納得しました。

 時間は90分と短めながら、丁寧に、そして真摯に作り込まれており、長く濃く感じました。

 アメリカではアカデミー賞ノミネート時に反対運動が起きたそうです。「自爆テロ」の話だから、拒否反応を起こしたのでしょうか。映画をちゃんと見れば礼賛なんかしていないのがわかるはずですが。
 「自爆テロ」を正当化せず、しかし拒絶もせず、“説明”しています。だから見ている者は考え迷う。

「この方法(自爆テロ)で世界は変わる」

 「自爆テロ」という方法は、明らかに“誤った”行為と言えます。しかし、それを選択してしまった若者の思いまで否定できません。“それ”しか方法がないんだ、“それ”で世界が変わるんだ、という純粋とも言える思い込み。そして、それ以上に大きい、自己破壊的な内なる衝動。
 若者が走っていくのを止められる事は、できない。

 しかし、それでもこの映画はこう叫んでいます。

「他に道はある!」

 テロの話なのに、映画には血も弾丸も爆発も一切出てきません。描かれているのは穏やかな日常であり、そこに潜む暗さです。加えてこの映画の場合、舞台がイスラエル占領下というとても複雑な背景のある人間達。先に書いたように、私にはテロを美化した映画には見えませんでしたが、もしかしたら当事者には違って見えるのかもしれません。

 この映画がストーリーの時間通りに撮られたかどうかは不明です。しかし、冒頭と終わりの主人公二人の顔が全く違います。一人の顔が段々晴れやかになるのに対し、もう一人はドンドン“黒く”なっていき、一点だけを見つめている。たった2日で、「死」は、ここまで人間を“成長”させるのでしょうか。

 勿論、これがフィクションであり、彼らは本当に死ぬわけではないから、私が見た“成長”は思い込みかもしれません。だけど、この映画はフィクションとドキュメントの曖昧な境目にあります。絶対に「嘘」なのだが、「嘘」だからこその「リアル」が潜んでいるのです。

 凄い映画ではありません。しかし「映画って凄い」と思うでしょう。

 ラスト、画面が真っ白になり暗転、音が一切ないエンドロールへと繋がっていきます。真っ黒な背景に白くキャストの名前が浮かび上がっては消えていく。

 沈黙の中に、若者達の叫びが聞こえた気がしました。

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